ケアする人も大切にされる社会へ

いざ介護が始まった時、ケアラー(介護する人)は何にとまどい、何が苦しいと感じるのか。
どんなサポートがあれば、仕事も人生も諦めずに介護を続けられるのか――

1年半に及んだ「ケアラー支援プロジェクト」(東京・生活者ネットワーク)の調査報告書が完成しました。
「多重介護」「認知症介護」「障害のある子どものケアラー」「ヤングケアラー」などなど、多様なケアを担う当事者の方々への聞き取り調査を重ねる中で、いまの社会に何が足りないのか、どんなサービスが必要なのかが、はっきりとした輪郭をもって見えてきました。

◆一人ひとり違うケアのかたち
・別居の父の介護を、続いて母の介護を、足掛け20年以上も担っている女性
・義父母の多重介護と子育てが重なった、ダブルケアの女性
・重度重複脳性マヒの息子を全介助しながら、認知症の実父を自宅で介護してきた女性
・40代でパーキンソン病を発症した娘を、80代になった今も在宅で介護する女性 などなど……
調査にご協力いただいた方たちのケアラー像は、多様でした。
「同居しているから」「仕事をしていなかったから」という理由でケアの主担当となる方が多い一方、「自分以外にケアする人がいなかった」との声も多く、小規模化する核家族化の中で、一人に介護が集中する現状がつぶさに見て取れました。

プロジェクトの座長として調査概要を報告しました

 ◆多重介護と連続ケア――聞き取り調査から見えてきたこと
「仕事をしながら実父を介護してきた実母が、脳梗塞で倒れた」「義母を介護する義父が、介護疲れと認知症の悪化で介護放棄」など、介護の負担の集中は、さらなるケアを生んでいました。
また、義母の介護にはじまり実父、実母、義母…と、最初にケアを担った人が連続して介護を担うケースも多く、何人も、
何度も、また同時に介護をするケースが想像以上に多いことに驚かされました。
多くの方は「睡眠時間が十分にとれない」「常に緊張状態」「自分の気持ちは置き去りで、毎日が自転車操業」など、肉体的にも精神的にも疲弊し、社会の中での孤立を感じていました。

◆目の前のケアラーに届けられる支援は? 社会資源調査を実施
聞き取りを重ねるうちに、「目の前の人の『今』を支える制度やサービスはあるのだろうか?」ということが気になり始めました。
そこで行ったのが社会資源調査です。
高齢者福祉計画や介護保険サービスに定められたフォーマルサービスのほか、地域独自のインフォーマルサービスについて、それぞれの自治体を調査。
比較検証ができたほか、介護相談会を夜間に行う(狛江市)、在宅介護者家族へ生活援助代行サービス利用券24枚を提供(杉並区)、ケアラー支援マップを全戸配布(調布市)など参考にしたいサービスもピックアップできました。

◆地に足の着いた政策提案へ
これまでのヒアリングを通して見えてきた、ケアラーの方々の呟きをもとに1月には政策提案作業会議を開催。
そして、「ケアラーを支援の入り口につなぐ」「家族を丸ごと支援する相談体制づくり」「ケアラーを孤立させない支援の充実」「ケアラーの生活を支える(レスパイトと家事・育児支援)」「ケア離職を防ぐ・復職を支える」「ヤングケアラーを支える」などの政策の柱と、具体的メニューからなる政策提案が完成しました。
報告集会ではプロジェクト座長として調査概要を報告し、アドバイザーの堀越栄子さん(日本ケアラー連盟代表理事)からは「現場に足を運び、支援のニーズを掴むという調査はまさに王道。実態の伴う論理的な政策提言」と嬉しい言葉をいただきました。

報告書の策定過程でたくさんの学びと気づきが得られた、ケアラー支援プロジェクト。
多くの方に読んでいただきたいし、私たち自身がこの報告書と政策提案を有効に活用していこうと思っています。
調査にご協力いただいた皆様に、心からお礼申し上げます。

報告集会に参加のプロジェクトメンバー、堀越栄子さん(日本ケアラー連盟)、大河原まさこ衆議院議員とともに